JUICEが迫るカリストの地下海洋：その証拠と探査の科学的意義
JUICE（Jupiter Icy Moons Explorer）探査機は、木星の氷衛星、特にガニメデ、カリスト、エウロパに焦点を当て、それらの天体に存在する可能性のある地下海洋の探査を目指しています。なかでもカリストは、その静かでクレーターに覆われた表面の下に、広大な液体の水からなる海洋を秘めている可能性が指摘されており、JUICE探査機による詳細な観測が期待されています。
カリスト：木星系で最も古い氷衛星の謎
木星の4大衛星（ガリレオ衛星）の一つであるカリストは、その表面が非常に多くのクレーターで覆われているのが特徴です。これは、カリストが形成されて以来、内部の地質活動がほとんどなく、表面が大規模に更新されていないことを示唆しています。ガニメデやエウロパが地質活動によって表面を変化させてきたのとは対照的であり、カリストがガリレオ衛星の中で最も原始的な状態を保っていると考えられています。
このような活動の少ない衛星の地下に海洋が存在するという説は、一見すると矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、過去の探査機ガリレオによるデータが、その可能性を示唆しています。
地下海洋の証拠：誘導磁場とその他の手がかり
カリストの地下海洋の存在を最も強く裏付けているのは、ガリレオ探査機が検出した「誘導磁場」の兆候です。誘導磁場とは、木星の強力な磁場がカリストに作用した際、もしその内部に電気をよく通す層（例えば、塩分を含んだ液体の水）があれば、その層に電流が流れ、二次的な磁場（誘導磁場）が発生するという現象です。ガリレオ探査機の観測は、この誘導磁場が存在する可能性を示唆しており、これはカリストの地下に導電性の流体層、すなわち塩水海洋が存在することの強力な証拠とされています。
この他にも、カリストの密度や形状の観測も、その内部構造が均一ではないことを示しており、地下に密度の異なる層（岩石核、氷マントル、そして液体の水）が存在する可能性を裏付けています。
JUICE探査機によるカリスト探査戦略
JUICE探査機は、カリストの地下海洋の存在を確定し、その性質を詳しく調べるために、複数の機器と戦略を駆使します。
- 磁力計（MAG）: カリストが木星の磁場とどのように相互作用するかを詳細に測定し、誘導磁場の有無とその強度を正確に特定します。これにより、海洋の深さや塩分濃度に関する手がかりが得られる可能性があります。
- 電波科学実験（3GM）: カリストの重力場を精密に測定することで、その内部構造、特に質量分布に関する情報が得られます。これにより、地下海洋の厚さや深さを推定する手助けとなります。
- 氷貫通レーダー（RIME）: レーダー波をカリストの氷の表面に送り込み、その反射波を分析することで、氷層の構造や地下に存在する層（特に液体の水）の検出を試みます。
JUICE探査機は、カリストに対して合計2回の低高度フライバイ（近接通過）を実施する予定です。これにより、カリストの重力場と磁場を詳細にマッピングし、地下海洋の特性をこれまで以上に高精度で明らかにすることが期待されます。
カリスト海洋の科学的意義と今後の展望
カリストの地下海洋の存在が確定されれば、それは木星系における水の惑星の多様性を理解する上で極めて重要な発見となります。カリストはガニメデやエウロパのように潮汐加熱（木星の重力による引き伸ばし効果で生じる内部熱）をほとんど受けていないと考えられており、もし海洋が存在するならば、その熱源や維持メカニズムは他の氷衛星とは異なる可能性があります。このことは、太陽系内外の惑星形成や進化、そして地球外生命の可能性に関する私たちの理解を深める新たな知見をもたらすでしょう。
JUICE探査機によるカリストの観測は、遠い宇宙の環境がどのように生命を育む条件を満たしうるのか、あるいは満たし得ないのかについて、私たちに貴重な示唆を与えてくれます。この探査によって得られるデータは、今後の宇宙生物学や惑星科学の研究に大きく貢献すると期待されています。